blog-chronicle〈ブロニクル〉

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祝!日本アカデミー主演女優賞 『紙の月』

1.
 今だからいえますが、ツアコンをやってたころ、手持ちの金が足りなくなると、会社から預かったツアー用の経費からいくらか、私用に充てていたという暗い過去がありました。もちろん精算時にはきっちり金額合わせて返してましたが。見つかったら解雇ものだったかな?
 
 顧客の預金横領を繰り返す銀行OLを描いた角田光代の長編『紙の月』、宮沢りえ主演、吉田大八監督により映画化されました。
 
 騙し取った金を高級ブランドや豪華なディナーにつぎこみ、一流ホテルで若い男性とつかのまの情事。オシャレっぽいBGMが流れるベッドシーンやクリスマスシーズンの街……
 
 一見してバリバリに仕事している妙齢の女性が好みそうなテイスト。カネに翻弄される人間の性に鋭く迫ったというより大人向けデートムービーの色合いが強いです。
 
 率直にいって「女優、宮沢りえを見せる映画」という印象です。本作で彼女は第38日本アカデミー賞主演女優賞を獲得しました。
 
 この作品、銀行内部の業務をどう分かりやすく観客に説明するかが一つのハードルではないかと思っていましたが、僕のように銀行預金なんかほとんどない人間でもなんとかついていけるレベルでした。
 
 もちろん本題は大金を手にした主人公が道を踏み外していくプロセス。池松壮亮演じる大学生とは会って2,3回で、えーもう、みたいな展開。さいきん引っ張りだこの池松くん、売れてくると顔つきが変わるなー。とくに目が。
 
 他の共演陣も大島優子のイマ風OL,近藤芳正のダメ上司、やりての先輩小林聡美など好配置。
 
 ストーリーと直接関係ない部分ですが、災害募金活動にいそしむ池松がいっぽうで口にする「被災地」という言葉のなんともいえない軽い響きが、いいとか悪いとかでなく、被災地への感情をはからずも表現してる感じで、これは演出なのかどうか分かりませんが印象に残りました。物語の背景が1995年なので東日本ではなく阪神淡路大震災でしょう。
 
 てなわけで前半はデートムービーっぽくてあまりノレませんでしたが、後半、主人公が追いつめられていく過程で緊迫感を取り戻します。
 
 結局は単なるカネに狂った女の話じゃんと言ってしまえばそれまでですが、少女時代の募金エピソードなどで主人公の中にもう少し深い葛藤があることを暗示します。
 

2.
「ありのままの自分を受け入れられなくなったのはいつからなんだろう」
 
 これは映画に先立ちNHKで放映されたドラマ版『紙の月』のなかで流れた主人公のモノローグです。
 
 僕ならこう答えるでしょう。「決まってるじゃんか。ありのままの自分が他人に受け入れられなかったときからだよ」
 
 さて、ドラマ版『紙の月』のほうは主演に原田知世、その夫役に光石研、主人公と不倫を重ねる大学生が満島真之介、だまされるお客たちにミッキー・カーチスや富士真奈美という面々です。
 
 映画の方は時系列に沿った正攻法の描き方でしたが、テレビ版は事件後、海外逃亡を続ける主人公と彼女の噂をしあう女友だち(水野真紀西田尚美)のカットバック、そして回想のかたちで主人公が犯行に至る経緯を描くという構成でした。
 
 原作ではどうなってるか分かりませんが、女友だちもそれぞれ超倹約家だったり買い物依存症だったりというサブストーリーがTV版でははさみこまれます。
 
 尺をもたせるため無理やり挿入したエピソードかもしれませんが、主人公と二人の女友達の三者三様の金銭感覚、価値観のちがいを対比させ、結果、群像劇のような奥の深さも感じさせました。
 
 放送は全5回、DVDで2巻。トータルで4時間半の長さです。映画版はどうしても尺の問題でTV版よりは各エピソードがおざなりかなーという気もしました。
 
 映画の感想といいつつ今回はTV版のほうに軍配をあげてしまった感じです。
 
 映画もドラマも観たから次は原作読むぞー!