blog-chronicle〈ブロニクル〉

あちこちのブログ、HPに書きちらかしたエントリを一本化。

昭和歌謡が受け継がれる場所(テレビの感想)。

 先週だかNHKの『ドキュメント72時間』という番組で
 昭和歌謡専門の中古レコード店に集まる人々のウォッチングをやっていて、
 その中古レコード店が以前よく行ってた新宿のディスクユニオンだった。
 ディスクユニオンは中古レコード、CD販売の大手で、新宿だけでも何店舗もあって、ひとつのビルの各フロアに違う店が入ってたりする。
 それぞれ店ごとにロック、ソウル、ジャズ、クラシックなど取り扱うジャンルが別れているのだが、 昭和歌謡専門の店ができてたのは知らなかった。
 最近はお茶の水の店によく行ってる。ここは洋楽邦楽取り扱っているほか古本も充実している。

 さて、番組は3日間店に張り込んで、やってくるお客にインタビューを試みるのだが、いやー、なかなか濃いキャラのお客が多かった。
 中古レコード屋なんて日常ごく当たり前に入ってるので、そんなに変わった人が集まる場所という印象もないが、
 昭和歌謡というのはまた特別なジャンルなのだろうか。まあ番組でもたくさんの客に取材した中からとびきり変わった人(失礼)をピックアップしてるのだろうが。
 昭和に流行した曲なので買いに来る客もわりと年輩の方が多く、カメラの前で曲にまつわる思い出などを語ったりする。
 それらを聞いてると僕もいろんなCDを買い漁っているけど、この人たちみたいな思い入れはないなーとうらやましさとちょっと寂しい気持ちの両方を感じる。
 たとえば自分が店で中古CDを探してるとき突然カメラを向けられたとしたら、いったい何を話せばいいのだろう。 

★ 

 あるお客は岡田有希子のファンで、彼女のLPを前に思いを語っていた。   おそらく僕と同世代だろう。彼女が死んだとき、他の多くの熱狂的ファンたちのように自分もあとを追おうと考えたりしたことはあったのだろうか。
 彼女がこの世を去って30年。この男性がその後どんな人生を生きてきたのか気になった。   ★
 まあ実際のところ中古レコード・CD屋には年配の人ばかりが集まってるわけじゃなく、10代や20代だって普通にいる。
 番組でも静岡在住の17歳の高校生にインタビューしていた。彼は土日を利用して泊りがけで東京へ出てきて、コンサート(南野陽子!)を観たあと中古レコードを買いに寄り、一泊して明日はアニメ映画を観て帰るそうだ。
 お金も持ってるし遊び方も慣れててサブカル知識を豊富。自分が17歳だったころとは大違いだなーと思わされる。   ま、たんなるオヤジのひがみだが、当時をリアルタイムで体験していると、曲や歌手と時代との相関関係が大ざっぱにはつかめている。情報やデータとしてではなく、ナマの体験として自分の中に残っている。   そういったものを持たずにアマゾンのリストを参考にまとめてカートに入れたり、iTunesでアルバムからヒット曲だけバラで買ったりしているのは、ちょっとつまらないかもなーと思ったりもする。やっぱりそのへんはリアルタイムで経験してるオヤジのほうが一歩リードしてるかなあと。   でも、流行歌(に限らず本や映画、TVドラマなどカルチャー全般)は、そんなふうに時代のバックグラウンドを抜きにして純粋に曲の良さだけを楽しむのもありかもしれない。  僕が半分うんざりしながらクズみたいな古本や昔のCDを買い続け、古い映画を観続けるのも、個人的な思い入れからではなく、そういうカルチャーの全体像を把握したいという思いがあるからかもな。なんちゃってそれほどディープでマニアックな知識もありませんけど。
★   番組の最後に、二十代のフリーターの女の子が「ジャケットの感じがかわいいから」といって選んだのは高橋良明のアナログ盤だった。   彼女はこのアイドル俳優が人気絶頂の20代なかば、彼女と同じくらいの年にバイクの事故でこの世を去っていることを多分知らないだろう。岡田有希子の自殺ほどセンセーショナルには語り継がれていないから。   遺伝子のように後世に受け継がれていくカルチャーたち。レコードや書籍といった形で残っていくカルチャーがあるように、きっと僕の中にも無形の遺伝子が蓄えられているのだろう。