コンビニ店員が芥川賞受賞作『コンビニ人間』を読んだ。
ライター稼業だけでは食っていけないので近所のコンビニで深夜バイトを始め、そろそろ2年。やっぱり夜明けは眠た~い~な~♪
昼夜にわたるダブルワークの疲れで読書からも遠ざかりがちだが、聞けば今度の芥川賞受賞作はコンビニが舞台らしい。
しかも作者自身、長年コンビニでのバイトを続けているという。おっと、これは同業者ではないか。(文章書いて食ってるという意味でもコンビニバイトという意味でも)。
ということで非常に興味深く『コンビニ人間』を手にとった。(以下ネタバレあり)
バレバレバレバレバレ~~~~~~⤵
一読して「えーっ、これが芥川賞?」と意外な感じを受けた。
芥川賞といえば、その年の新人「ブンガク」作家の最高峰といわれる賞。
「ブンガク」とは難解なもの、よって芥川賞を獲ったブンガク作品というのは、ちょっと僕ら凡人には理解にあまるもの、というイメージがある。
そういう意味では本作品は、芥川賞作品とは思えないほど「とっつきやすい」。
文体も平易、登場人物のかわす会話も日常のやりとりそのもので、ほとんどテレビドラマのセリフのようだ。
設定からしてよくある「お仕事もの」みたいだし、後半の恋愛やセックス抜きの男女の同居も、独身女性あたりをターゲットにしたドラマでなどでよくあるパターンだ。
まあブンガクは難解という先入観を取っ払う役目ははたしているかもしれない。もすこしエンタメ性が強ければ(コンビニにありがちなドジ話とか小ネタを仕込んで読者サービスに努めるとかすれば)芥川賞よりも直木賞候補にふさわしい作品だったかもしれん。受賞するかどうかは別として。
分かりやすい文章はけして悪くないとして、かんじんのコンビニ内の描写も食い足りない。
僕も深夜から朝までコンビニで働いてるが、この作品に描かれている仕事風景と較べると、その印象がまるで異なるのが興味深かった。この違いは夜勤と昼間勤務の差かもしれない。
同業者の立場で言わせてもらうと(文筆じゃなくてコンビニの方ね)、コンビニのバイトって他の仕事にない面白さとかユニークさがもっといっぱいあるんじゃないかって気がするわけ。そういうところをもっと書いてほしくてそれがちょっと残念だった。これじゃ他の仕事とあまり差はなく、舞台をわざわざコンビニに選んだ必然性が感じられない。
たしかに専門用語や小道具も随所に出てくるけど、ほとんど説明抜きなので、コンビニに詳しくない人が読むとちょっとイメージがわかないかもしれない。(たとえば「から揚げ棒」にしても、どんな食べ物なのかまったく説明や描写がなかったりする)。文学作品(=非エンタメ)って、こういうディテール描写や表現の斬新さがキモだと思うんだが。
ま、「わかりやすく懇切丁寧に説明するのってダッサいしぃ~、あえて細かく説明しないほうがプロっぽくてカッコよくない?」的な手法なのかもしれん。どっちがいいか、このへんは意見が分かれるところだ。
では本作品の芥川賞に値する「ブンガク」っぽさはどこなのかについて考えてみるのですが、
作中にひんぱんに「私は社会の部品」だの「異端を排除するムラ社会」といったフレーズが登場する。こういうのが文学的なのかもしれないが、正直、べつだん新しさは感じない。そういうことをテーマにした小説はエンタメも含めてもう山のようにある。そこまで絶賛されるほどのものだろうか。
まあ、ちょっと新鮮かなーと思えるのは、その社会の部品とか異端の排除について、かつての純ブンガクだったらウジウジと深刻に悩むところを、本作の主人公はむしろライトに肯定してしまうところだろう。
ただ、主人公がコンビニにこだわる理由として、社会にうまくコミットするためのやむをえない処世術としてコンビニ店員の仮面をつけているのか、あるいはコンビニの仕事そのものに自己実現的な充実感を感じているのか、そのへんをもう少し掘り下げてほしかった。僕の読んだ印象では後者が強いようにも感じたが、それではよくある「お仕事小説」と大差ないような……。
主人公と同居する元同僚の男性の方もちょっと動機に一貫性がなくて、
はじめは主人公から同居話をもちかけられ、あまり気が進まないままズルズルと一緒に暮らし始めるのだが、仕事もせずにヒモ状態を続けながら途中から「俺は全女性に復讐するためにこのライフスタイルを選んだのだ」と豪語し始める。このへんがやや唐突だ。コンビニ店員してたときは客の女性にストーカーして店をクビになったのに。女嫌いなのか女好きなのか、それともフラれて女嫌いになったのか。 ま、人間の動機なんていつもいつも一貫してるわけでもないだろうが。
ついでに付け加えると、この同居人は主人公の部屋で異常とも思える行動をとるのだが、一応きちんとした理由があって、ワケを聞いてみると「な~んだ」という程度のものであった。この男性の行動の部分だけを紹介して、いかにも現代人の異常心理を表現してるように持ち上げた某番組もあったが。
はじめにも書いたが、軽く読めるので、ふだんブンガクを食わず嫌いしている方々でも読みこなせると思います。ブンガクの権威が堕ちつつあるこの時代、芥川賞も生き残りをかけてラノベ化にシフトしているのかもしれまへん。
実際にコンビニに勤務している著者は、芥川賞受賞が決まって店の同僚や常連客のあいだでも話題になっているそうで、非常におめでたいことであります。
作中でも主人公が男と住んでることが発覚し、仕事仲間のあいだで話題の的になるくだりがあり、文学賞を獲って一躍メジャーになった著者に奇妙に符合する。「ブンガク」と「オトコ」な同義なのかもね。
さあ、今夜もコンビニで夜勤だー!