blog-chronicle〈ブロニクル〉

あちこちのブログ、HPに書きちらかしたエントリを一本化。

めざせハスラー!

 精神病院というのは実にヒマな場所だ。 

 20代半ばのころ急性パニック障害を起こし、当時まだそういう言葉がなかったので精神分裂病(今でいう統合失調)と診断され、2か月ばかり入院生活を送った。 

 急性だったので症状がおさまってしまうと、あとは何もやることがない。ひたすら布団にゴロゴロして送る毎日だった。この機会に山ほど本を読んでおけばよかったのだが、ああいう場所ってなかなか集中できないものだ。今考えると、院内で飲まされる薬がけっこう強くて頭がボーッとなり読書なんかとてもできる状態じゃなかったのかもしれない。 

 その入院病棟の広いホールみたいな場所にビリヤード台がひとつ置いてあった。ビリヤードはまったく未経験だったが、とにかく他にやることがないもんだから見様見真似でキューを手に取ってみた。 

 玉を1から15まで順に落としていくと、けっこういい時間つぶしになるんですね。球がポケットに落ちた時のゴトン、て感触も何ともいえずキモチいい。ルールとかもよく知らなかったけど、とにかくムチャクチャ突いて退屈さをまぎらわしていた。 

 退院後も二、三度プールバーらしき店へ入ってみたが、たいして上達しないし間もなく足が遠のいてしまった。 

 つい最近、スクリーンでP.ニューマン主演『ハスラー』を観た。白熱のビリヤード勝負を描いた1956年のモノクロ映画だ。 

 観てるうちに久しぶりにまた玉突きがやりたくなった。 

 『ハスラー』はその後、同じP.ニューマンと今度はトム・クルースの共演で続編がつくられ日本でも公開、その時はちょっとしたビリヤード・ブームが起きた。あっちにもこっちにもプール・バーができて、ナウいヤング(死語)の集まるおしゃれスポットとして人気だったらしい。 

 そのブームの生き残りみたいなプールバーがうちの近所にも一軒ある。はやってるのかどうか知らないけどしぶとく営業を続けていて、夜中に店の前を通ると看板のネオンがピカピカ点滅している。 

 時間があるときに一度入ってみようかなどと思いつつ、なかなか勇気が出ない。

 プールバーってやっぱり不良がたむろしてるイメージが強いし、そうでなくても遊び人みたいな人間が集まってて、自分のようなイケてないヤツは浮きまくってしまうんじゃないかってイチマツの不安もあるし。 

 ただでさえあのての店って、顔見知りの常連のたまり場になってるイメージがあって、よそ者が入ってくると白い目で見られるような気がする。 

 映画『ハスラー』でもニューマンがフリで入った店でガラの悪い客たちに勝負を持ちかけ、プロのハスラーだとばれてボコボコにされ、玉突きにとっては命の次に大事な親指をへし折られてしまう。 

 こっちも客なんだから常連だろうがそうでなかろうが気にせずにプレイすればいいのだろうが、ここで問題なのは「自分がそれほどビリヤードがうまくはない」という事実だ。 

 目当ての玉がなかなか落とせずに台のまわりをぐるぐる何週もしてる姿は、手慣れた常連客たちの失笑を買ってしまうにちがいない。 

 こうなったら『ハスラー』に出てきた金持ちみたいに、自宅の地下に専用プール・バーを作って自主トレに励んでみるか。 

 それともまた入院する?