オトコは黙って・・・
その昔、オトコはむやみに喋ってはいけないものとされていた。
いやー変われば変わるもんだ。今では「喫茶店で話が20分もたない男とはつきあうな」だもんね。
うちの老い先短い父親も昔の人間なもんだから、ほとんど家族と言葉を交わすことはない。たまに口を開くとすればその内容はたいてい小言の類である。
一日じゅう黙って、何をしているかというと、TVをじっと眺めている。
それもTVを見ながら笑うとか、内容について何か感想を言うというのでもなく、ひたすら無言で画面を凝視している。その姿ははたから見ているとちょっと異様だ。
ニュースだろうがグルメ番組だろうがあの集中力で一日ずっと見てたら、
さぞかし膨大な量の知識や情報が頭の中にインプットされるだろう。
しかし、たとえどんなに豊かな博識があったとしても、
親父はけしてそれを周囲にひけらかすことはない。昔の男だから。
僕は、親父がいつかこの世を去る間際、
それまで蓄えてきた人生哲学、生きる知恵といったようなものを
そっと息子たちに伝授して、あの世へ旅立ってくれるのではないかと、ひそかに期待している。
そうすれば親父亡きあと、僕は彼のことを「ああ、偉大な人であった」と尊敬することが出来るのだが。
前置きが長くなりましたが、ガンで死にゆく父親との生活を娘が撮影し続けた「エンディング・ノート」というドキュメンタリー映画が静かな話題を呼んでいるそうです。
映画の中で父親はあの世へ旅立つ思いを告白して見る者を感動させているようですが、
うちの親父も今までこれといって立派なことを言ってないぶん、死ぬ時は何か重みに満ちた言葉を吐いてくれるんだろうか。ありえないな。
映画「エンディング・ノート」公式HP